花子さんのストーリー
私は、長く、「漢字は手で覚えるものだ」と信じてきました。漢字を覚えるためには、書くことが必要で、教師としても、そういった授業や宿題を続けてきました。他の方法があるということがあるとは考えなかったです。
それを打ち破ってくれたのが花子さんです。
そのストーリーを紹介します。
N先生:「花子さん、じゃあ、漢字の練習をしようか」と声をかけた時のことです。
花子さん:「しません。どうせ漢字はできないからいいんです」と言いました。
N先生:担任先生に、「花子さん、漢字ができないのですか。」と尋ねると
担任先生:「そうですね。テストはほとんどできていないです。一学期末の漢字テストもほぼ0点でした」
N先生は、漢字テストが0点近いなら、漢字も嫌だよなあ…と思いながら、「漢字のテスト調べなど、しないのでしょう?」と尋ねると、
担任先生:「そうでもないんですよ。漢字をノートに書いてきて、練習はしています」とおっしゃいます。
なんでだろうなあ…と思いながら、花子さんの様子を見ることにしました。
担任先生:運動は得意です。お話もよくします。明るくて、活動的です。
そんな花子さんが字を書いている様子を見ると三つのことに気づきました。
・書くスピードが速くない。
・字の形が取りにくい。
・一生懸命書いても上手く書けない。
そこで、あることを思いつきました。
N先生:花子さんに、「漢字は書かずに見て覚えてみようか」と提案しました。漢字をじっと見て覚えていきますが、ここで役に立ったのが部首でした。それまで、花子さんには、部首をカードで指導していました。カードを見せて部首名を言うという、とてもテンポいい学習でした。書くこともありませんでしたので、花子さんは、楽しそうに、ゲームをしているように部首名を覚えていきました。あるとき、花子さんは、「群」という漢字を見て、「君の羊かあ」と言ったのです。これには、驚きました。
自分で漢字を分解し、語呂合わせのように言うのですから。「群」は「君の羊」で覚えられました。
このように、見ながら、漢字を分解しながら、語呂合わせを考えながら、書く量を減らしながら、花子さんは漢字を見て覚えていきました。漢字テスト学習も一緒にしました。覚えにくい字はひとまず置いておいて、覚えやすい漢字や馴染みのある漢字から覚えていったのです。
そうして、漢字テストは、少しずつよくなっていきました。
担任の先生は、こうおっしゃっていました。
「花子さんは、学年最後の漢字五十問テストをした時、時間いっぱいまで覚えた漢字を思い出そうと必死でした。『先生と一緒に覚えたんだけどなあ』と言いながらどんどん書きました。一度もあきらめることなく本当に一生懸命な姿でした。満足できた点数が取れたことがとても嬉しそうでした」
さらにこうもおっしゃっていました。
「算数テストにもよい影響が出ました。一学期はテストに取り組む前はぼんやりとしていました。でも、漢字テストでいい点がとれるようになてからは、テストが始まるギリギリまでテスト勉強をするようになりました」
人は、自分に自信ができると、今まであきらめていたことにも挑戦をしていくのですね。
自信は、次の扉を叩く勇気を出してくれるのです。花子さんは、漢字の学習をしながら、自信をつけていっていたのです。
そして、「漢字は書かなくてもおぼえられますよ」という大切なことを私に教えてくれたのです。